第三十九回 大阪楽所 定期演奏会の裏側

皆様、ご機嫌いかがでしょうか。本日は、令和5年6月3日に開催されました、大阪楽所の定期演奏会の普段見る事の出来ない、舞台裏の模様をご覧頂きたいと思います。まずは、午前8時30分に大阪の国立文楽劇場に集合致します。そして、機材や大きな楽器を全員で舞台に搬入が行われます。11時にはリハーサルが行われますので、それまでに舞台の設営が完了しなければなりません。大阪楽所の定期演奏会は昼の部14時から、夜の部18時からと一日になんと二部行われますので、丸一日がかりで搬入から撤収を行う、その長い一日がはじまりまります。

大阪の国立文楽劇場

舞台は神聖な所でございます。さまざまな芸術家が情熱を込めてきた場所であり、背筋を伸ばして気を引き締めて向かわなければなりません。

舞台袖からみた観覧席

国立文楽劇場の大道具さん達が舞台の基礎を手際よく組立て行きます。

舞台の位置が決まると、雅楽特有の緑色のしたカーペット(地敷)を敷きます。

まっすぐ、そして弛みなく敷くのにはとても技術が必要です。

現場監督が大道具さん達の指揮を執ります。
楽人だけでは、しっかりした舞台を組むのには少し難しいですね。

観覧席から見た様子

欄干は組み立て式。雅楽は欄干の中で、管絃、舞楽と行われます。欄干を真っ直ぐに組み立てるのも、とても難しい作業でございます。

ココまで来ると、大道具さんの手は離れ、楽人と強力な助っ人の方々が総出で欄干を組み立ててゆきます。

欄干もほとんど出来てきました。この舞台裏では、舞人の装束や楽人達がココの装束の準備に追われております。休む時間はひと時もございません。

舞台の設営が終わりますと、今度は照明さんの仕事が始まります。大きなホールで舞台を経験された方はご存じですが、この照明がなんとも暑い事。装束の中は汗でぼとぼとになります。

舞台中央から見て左方と右方に舞楽の管方が着座する楽器の台と胡床が置かれます。ココまでくれば完成となります。胡床の位置も前後左右狂いなく設置致しますが、とても神経をとがらせて仕上げを行います。

間髪入る間も無く、リハーサルが始まろうと致しております。
という事で、本日は、普段ご覧になられる事の無い、演奏会の裏側をご覧頂きました。沢山のお手伝いの方にご協力頂きまして、この場をお借り致しまして厚く御礼申し上げます。それでは、次回は演奏会の模様をお届けしたいと思います。

鵜殿のヨシ原 ヨシ焼が3月12日に行われました

鵜殿のヨシ原

雅楽の主旋律を奏でます、篳篥という長さ18cmほどの楽器の蘆舌(以降リード)は、古来より大阪府高槻市にある鵜殿のヨシ原に自生した葦(以降ヨシ)を使用して製作されてきました。元禄3年(西暦1690年)に雅楽の未来を案じた安倍季尚が著した『楽家録』という文献に『古来摂津国鵜殿の地に生ずるところの蘆、これを用ゆ。』とあり、現在も文献に倣い鵜殿のヨシをもって雅楽の篳篥の音色としているのです。

ヨシは天然自然ではありますが、人間がヨシ焼を施す事により、雑草や害虫がこなくなり、新たなヨシがすくすく育つのでございます。昭和の時代まではヨシズなどの材料としても使用されておりましたが、現在は海外製のヨシズがリーズナブルゆえに、日本産は少なく、故に鵜殿のヨシ原は篳篥のリードに使用するのが主となりました。

この、鵜殿のヨシ原で収穫されたヨシは、篳篥の演奏には欠かせない物であり、現在は雅楽協議会が中心となって未来に雅楽の音色を繋げるべく、保全活動に取り組んでおります。

そして、今回は上牧公民館で行われました、雅楽協議会 ヨシ対策室事務局と組合の会合に参加させて頂きましたので、ご報告させて頂きます。

まず、昨年ヨシ焼が行われ、アルバイトやボランティア大勢の参加の元、鵜殿のヨシ原に生える雑草、つる草やオオブタクサ等の除去を行い、今年正月よりヨシが2000本ほど刈り取られました。

状態につきましては、質はまずまず、太さは少し細い。という事でした。

篳篥のリードには直径12㎜程のものが使用されます。篳篥の奏者が持つ楽器の差し込み部の大きさはまちまちで、また、奏者の口に合うリードの大きさにも好みがあり、概ね11㎜から12㎜前後が篳篥に使用されるヨシの直径といって良いと思います。

故 東儀兼彦先生は11㎜から11,5㎜程のものを使用していたようで、私も、故 安倍季昌先生よりリードを頂きましたが、やはり11㎜から11,5㎜ほどのヨシを使用されておりました。現在は宮内庁式部職楽部には12㎜の物が納められているようで、昨今の楽器は少し太くなったという印象です。

ここで、11㎜、12㎜という直径の1㎜の差ではございますが、外周でお伝えしますと、11㎜は34,54㎜に、12㎜であれば37、68㎜になり、リードは平たく半分にひしいで使用しますので、換算しますと1,57㎜も大きさが変わってきます。

直径1㎜の差はとてもシビアで、音量や音色に影響を及ぼしますので、筆者のこれからの研究課題と致します。

昨年は沢山のボランティア、アルバイトの方のご参加により、雑草を取り除く事が出来たことで、ヨシがあたらめて自生致しましたが、地下茎はまだ十分に健全とはいえない状態であり、今年もヨシ原でつる草やオオブタクサなど、そもそもヨシ原に自生していなかった植物を取り除くという作業を継続して行う事となりました。

今までは、ヨシ焼が毎年行われる事によって、雑草取りなどは行う事はなかったということで、それ以上にヨシの群生のほうが圧倒的に有利な状態であったという事を理解しないといけません。ヨシが強くなれば雑草が生えにくくなる。それは、ヨシが空高く生える為、地面には日が届かなくなるからであるようです。

しかし、一昨年以前に数年間、ヨシ焼が行われる事が無かったことにより、ヨシ原が荒れ放題となり、つる草等がヨシに巻きつくなど、ヨシを倒してしまい手の施しようがなかった事によって、危機的状況が生まれたのであります。また、治水の影響でヨシ原が水に浸かる事が無くなったことで、養分が陸地に行かない、という事も仰っておりました。

また、今回3月12日に無事にヨシ焼は行われましたが、高槻市民より沢山の苦情が各部署に届いたという事で、消防署の対応も危機的であったようです。本当に難しい問題でありますが、世界最古のオーケストラと云われる雅楽の音色の継承の為にはヨシ焼が必要ですので、理解を深めてもらいたいと思います。

また一つ問題である。NEXCO西日本の橋脚。

なんと、大切なヨシ原に高速道路が横切ってしまうという事で、すでにこのビッグウェーブにあらがう事は出来ません。高速道路は吊り橋の形状で淀川にかかる予定という事ですが、高速道路が完成して、鵜殿のヨシ焼は可能だということですが、NEXCO西日本に独自に取材したところ、なんとかヨシ原焼は永続できるように努められるということですが、100%大丈夫ではないとも。さらに、橋脚や橋の前後は通り抜ける風が負圧により流速が増す事が予想されます。植物は光と水と土と風の影響を受けて育つ訳で、一般的に風が強くなると、植物は倒れまいとして、太くなろうとするようです。これらは、橋が完成してから、あらためてヨシの育成を見て判断を迫られる事となりそうです。

という事で、持続可能な協力体制も含めて考えて行かなければ、雅楽の篳篥の音色も途絶えてしまう事になりますので、今年も雅楽協議会 ヨシ対策室が行う行事にご協力頂ければ幸いです。

会合出席者 筆

若葉会発表会

大阪楽所の若葉会発表会が令和4年11月25日にクレオ大阪中央ホールにて開催されました。

若葉会発表会は大阪楽所の新人研修生が初舞台を踏む場所でもあり、また大阪楽所の準会員、会員が定期演奏会において各パートの主管を目指して、また、主琵琶、主箏、楽太鼓や鞨鼓など上達を目指して2年に一度開催されます。

第一部は管絃。

双調の音取 入破 胡飲酒破

双調の音取 陵王 酒胡子

双調の音取 武徳楽

と、それぞれにメンバーが分れて演奏致しました。

新人研修生の皆様

大阪楽所では、毎月2回の新人研修を半年をワンクールとして行っております。

笙、笛、篳篥とそれぞれの管別に分かれ、また初級、中、上級に分かれて勉強致します。

雅楽器の演奏はとても難しく、まずは楽器を持つ前に雅楽曲を唱歌にて体に染み込ませないと

上手に吹く事が困難なのであります。

舞楽 蘭陵王

第二部は舞楽。

舞楽は左方と右方に分かれます。

左方は中国大陸から日本に伝えられたもの。右方は朝鮮半島を経由して日本に伝えられたもの。という大枠がございますが、日本で出来た曲も御座います。

今回は左方は蘭陵王、右方は納曽利。

この曲目は番舞とも申しまして、蘭陵王と納曽利は双龍の舞と称されております。

納曽利は2人で舞いますが、奈良の春日では1人で舞う事を納曽利、二人で舞う事を落尊と言い伝えられております。

息を合わせて

今回の納曽利の舞人、藤本氏は舞台を降りる際、涙が面からこぼれたと仰っておりました。一人一人がそれぞれに秘めながら懸命に稽古を行い雅楽の演奏に臨んでおります。

それでは皆様、次回の大阪楽所定期演奏会をお楽しみに。